十月に入って、羽織るものを一枚増やした。クローゼットから取り出したカーディガンを手にすると、袖を通すより先に、重さと毛足の感じを指が思い出す。布を選ぶとき、私は指先で決めているのかもしれない。
無地ばかり選んできた私の棚にも、よく見ると、織りの粒や編み目の影、糸の撚りの違いがある。模様がなくても、布は手触りという情報をたくさん持っている。
群馬県立館林美術館で始まる企画展「テキスタイル・アートを楽しむ」の紹介文に、その手触りのことが書かれていた。
丹念な手仕事で時間をかけて生み出される作品は、手触りの記憶を呼び起こす素材の魅力とともに、美しい色彩や想像もできない形を見せてくれます。
——群馬県立館林美術館「テキスタイル・アートを楽しむ ―現代の糸、布、繊維の芸術―」より
目を引かれたのは「手触りの記憶を呼び起こす」という言い方だった。展覧会は目で見るものだと思い込んできたけれど、見る場所で手触りの記憶が呼び起こされるという言い方が、私には新鮮だった。
紹介文には、織る、編む、縫う、染める、縮める、という動詞が並んでいる。五つのうち、私が暮らしのなかで知っている「縮める」は、洗濯でセーターを縮めてしまった失敗だけだ。それが技法の一つとして挙がっているのが、少し可笑しくて、少しうらやましい。同じ「縮める」でも、手の使い方がまったく違うのだろう。
「時間をかけて」という言葉にも、立ち止まった。ボタンを付け直すような小さな手仕事でさえ、私は早く終わらせたくて急いでしまう。時間をかけた手仕事を前にしたら、その速さの違いが、布に残ったものとして見えてくるのかもしれない。
素材に「天然や人工の繊維」とあるのも気になった。私の棚にあるのはウールと綿ばかりで、人工の繊維の手触りを意識して選んだことは、あまりない。出品されるのは現在活躍中の国内作家11名とのことで、それぞれが選んだ素材の違いを、順番に見ていけたらと思う。
私はまだ展示を見ていないので、どんな布に出会えるのかは分からない。ただ、行く前にできることはある。引き出しのスカーフやブランケットを一枚ずつ取り出して、目を閉じて触れてみたい。手が覚えているものを確かめておくと、展示室で見る色や形に、記憶のほうから近づいてくる気がする。見るために、まず思い出しておく。
開催情報
- 会期:2026年10月10日(土)〜12月13日(日)
- 会場:群馬県立館林美術館
- 時間:午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
- 休館日:月曜日(10月12日、11月23日を除く)、10月13日(火)、11月24日(火)
- 観覧料:一般850円(20名以上の団体680円)、大高生420円(20名以上の団体330円)。中学生以下、障害者手帳や指定難病受給者証等をお持ちの方とその介助者1名は無料。群馬県在住の65歳以上の方は平日のみ2割引き
- 主催:群馬県立館林美術館