台所に、縁が少し欠けた皿がある。何年も前から使っているもので、買い替えようかと思ったことも、正直何度かある。それでも棚から新しい皿を出そうとすると、なぜかいつも同じその皿に手が伸びる。欠けた部分を指先でなぞりながら、これはこれで悪くないと思っている自分がいる。道具を選ぶとき、私は見た目の整った美しさよりも、手に持ったときにしっくりくる感じを、いつのまにか優先するようになっていた。
静嘉堂@丸の内で開かれている「民藝SHOCK!! ―没後60年 静嘉堂の河井寬次郎」という展覧会の紹介文を目にした。そこに書かれていた一文が、しばらく頭から離れなかった。
大正・昭和を代表する日本の陶芸家・河井寬次郎(1890〜1966)。大正後半期に「民藝(民衆的工藝)」と出会い「用の美」を意識したやきものを生み出しました。本展では館蔵の寬次郎作品51点を公開し、その創作の源泉をさぐっていきます。
——静嘉堂文庫美術館「民藝SHOCK!! ―没後60年 静嘉堂の河井寬次郎」より(公式サイト)
「用の美」という言葉を、しばらく考えている。美しさというと、つい形の整ったもの、飾られるためのものを思い浮かべてしまう。けれど「用」という字がついているのは、使われることのなかにある美しさを指しているのだと思う。私が縁の欠けた皿を手放せずにいるのも、もしかしたらそれに近い感覚なのかもしれない。完璧な形ではなくなったその皿は、それでも毎日の食卓で役目を果たし続けている。欠けていることと美しいことは、私のなかでは対立していないらしい。
もっとも、これは私の勝手な結びつけであって、河井寬次郎という作り手がどんな思いでやきものに向き合っていたのか、私はまだよく知らない。紹介文からうかがえるのは、その人が「民藝」というものに出会い、「用の美」を意識したやきものを生み出していったということだけだ。その先にどんな作品があるのか、実物を前にしたとき自分が何を感じるのか、いまは想像するしかない。ただ、道具は使われることでかたちを保っていくのだというようなことを、この短い紹介文を読んでからずっと考えている。
欠けた皿を、もう少し大事に扱おうと思う。買い替える理由を探すのではなく、いまここにあるものをどう使い続けるか、そちらに頭を使いたい。展覧会には、まだ行けていない。会期のうちに一度、実際の作品を見に行ってみたいと思っている。
開催情報
「民藝SHOCK!! ―没後60年 静嘉堂の河井寬次郎」は、静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)にて、2026年9月5日(土)から11月8日(日)まで開催されている。休館日は毎週月曜日(ただし9月21日(月・祝)、10月12日(月・祝)は開館)、9月24日(木)、10月13日(火)。開館時間は10:00から17:00(入館は閉館の30分前まで)で、第4水曜日の9月23日(水・祝)と10月28日(水)は20:00まで、11月6日(金)、11月7日(土)は19:00まで開館している。入館料は一般1500円、大高生1000円、障がい者手帳をお持ちの方(同伴者1名〈無料〉を含む)700円、中学生以下無料。国宝《曜変天目(稲葉天目)》も出品されている。毎週木曜日は「トークフリーデー」で、気兼ねなく話しながら鑑賞することができる。写真撮影ができるのはGallery1とホワイエのみで、動画撮影とフラッシュ撮影は控えるよう案内されている。音声ガイドの貸出は1名1台700円(税込)。詳細は静嘉堂文庫美術館の公式サイトにて。