粋

目まぐるしい日の隅に絵を置く|山種美術館「ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ」

締め切りが重なる週は、時間が数字でしか見えなくなる。何字、何分、何件。カレンダーに空白を見つけても、それを埋める算段から始めてしまう。

そんな頃、山種美術館の展覧会紹介文を読んでいて、ひとつの文で手が止まった。

目まぐるしい相場の世界に身を置いていた種二は、絵画鑑賞を「こよなき楽しみ」としていました。

——山種美術館「ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ」より

種二とは、山種証券(現・SMBC日興証券)の創立者、山﨑種二(1893-1983)のことだ。同じページには、美術館のコレクションは種二が個人で集めた作品が基礎になっている、と書かれている。相場の世界にいた人と、絵の前に立つ人が、ひとりのなかでどう並んでいたのか。ここから先は私の想像だが、忙しさの合間に絵を見ていたというより、忙しさのなかに絵を置いていたのかもしれない、と思った。

集めはじめたのは、同時代の日本画家の作品だったという。紹介文によれば、種二には「絵の値打ちは作者である画家の人柄に負うところ大だ」という信念があり、横山大観、上村松園ら画家たちと親しく交際しながらコレクションを築いたそうだ。値打ちを人柄に置く、という考え方がいい。私は文章を書く仕事をしているから、原稿の値打ちを字数や納期でしか測れなくなる日がある。そういう日こそ、数字ではない物差しを一本、持っておきたい。

展覧会には、重要文化財に指定されている竹内栖鳳《班猫》と村上華岳《裸婦図》をはじめ、上村松園《蛍》、川端龍子《鳴門》、土田麦僊《大原女》、福田平八郎《筍》などが並ぶと案内されている。展示予定は約40点で、修復後初公開となる小室翠雲《海寧観潮》も並ぶという。作品リストには、菱田春草《月四題》や速水御舟《昆虫二題 葉蔭魔手・粧蛾舞戯》といった題名も見える。題名を声に出して読むだけで、数字とは別の言葉の使い方を思い出す。その言葉を、一行でも自分の文章に持ち帰れたらうれしい。

私はまだ実物を見ていない。だからこそ、行く日を先に決めてしまおうと思う。空いた日に行くのではなく、先に絵の前の時間を書き込み、そのまわりに仕事を並べる。順番を入れ替えるだけで、目まぐるしさの見え方が少し変わるかもしれない。

開催情報

出典:山種美術館 公式サイト「ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ」

はじめのページへ